毎日映画チャレンジ1日目『時計じかけのオレンジ』
というわけで始まった毎日映画チャレンジ。
第一回目はあの『時計じかけのオレンジ』だ。
原作者のアンソニー・バージェス自身が”危険な本”と語った同名の小説を映像化。非行少年による暴力が横行する近未来のロンドン。アレックスも仲間を引き連れ、喧嘩とレイプに明け暮れる日々を過ごしている。ある夜、中年女性を死に至らしめた彼は刑務所行きに。しかし2年後、とある治療法の被験者になることを条件に、社会に戻ることを許されるが……。(映画.comより引用)
私が観たことのあるキューブリック作品は『シャイニング』と『2001年 宇宙の旅』のみだが、両作ともにかなりツボに刺さる映画だった。
しかし『時計じかけのオレンジ』はまた別格という印象を持っていた。
英国で少年事件との関連が取り沙汰され上映禁止になったというエピソードもあり、過激なカルト映画というのが本作を見る前の私の印象だった。
しかし、実際見てみると過激な暴力描写はもちろんあるが存外マトモな映画という感想を持った。
その暴力表現も当時ならともかく、現在ではそうめくじらを立てるほどでも無いという印象だ。
しかし、それでも間違いなくこの『時計じかけのオレンジ』は別格の映画だと言える。
まずは全編にわたって何度も流れるクラシックの名曲達。
画面で繰り広げられる純粋な衝動によるセックスと暴力は音楽により、奇妙な魅力を感じさせる危ういものへ昇華されている。
アレックスが『雨に唄えば』を歌いながら夫人をレイプし作家に暴力を振るうシーンは一種のミュージカルやオペラのような雰囲気を放っている。
目の前で起こる凄惨な悲劇に対し、その悲劇を起こす当事者は心よりその暴力を楽しんでおり、美しい音楽がそれを補強する。
アレックス自身の心情を観客が否応なしに体感することができるのだ。
そして中盤行われるルドヴィゴ療法では暴力、レイプ、戦争の映像が雄大なベートーベンと共に映し出される。
ここで観客が前半で体験した暴力と音楽がリンクしてくる。
我々がこれまで見せられていたのはキューブリックによるルドヴィゴ療法と言えるわけである。
そして後半、アレックスに降りかかるのは自分が行ってきた暴力と全く同じ不条理で衝動的な暴力である。
しかしそれまでの自身の暴力衝動を今度は受動的に体験した結果、アレックスはルドヴィゴ療法の苦痛から解放される。
暴力衝動を自ら発し、他社のそれを受けとめた今、彼の暴力衝動はテーゼ、アンチテーゼの先にあるジンテーゼの領域に至ったのでは無いだろうか。
この映画はこの回復したアレックスの場面で終わるが、もしもこの先があるとしたら彼はどうなるのだろうか。
そんな想像の余白を残してくれる、非常に味わい深い映画であった。